Background Music for Politics


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Column - Culuture


Background Music for Politics
選挙の音楽

 

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Aimee Marcos
エイミー・マルコス/1979年ニューヨーク生まれ。靴の多い家庭に育った、マルコス一族の末娘。フィリピンをベースにミュージシャン、ジャーナリストとしてマルチに活動中している。

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 2021年の夏、ちょうど1年遅れで東京オリンピックが開催されていた頃、寄稿した『almanacs』創刊号が届いた。その中に意見広告のクロスワードがあったのだが、あまりにくだらない設問に答えていくと浮かび上がってきたのは、「GO VOTE」という文字。私が生まれ育ったアメリカ、大学時代に学んだイギリスでは、文化の高低、メインやカウンター、マスやサブを問わず、政治と文化は密接に絡み合っていた。今暮らしているフィリピンでも、程度や理由はともあれ、文化に携わる人たちの政治に対する関心が高いし、自分の主張や支持政党などを比較的オープンにし、実際に政治活動にも関わっている人も少なくない。

 日本の場合はどうなのか、日本在住でこのコラムの発注者で翻訳をしている同級生の編集者、Sugar Kaneに聞いてみた。すると、日本ではいわゆる体制や資本と距離を持つ独立系メディアや文化団体が少なく、文化人や芸能人が政治的な声を上げることはタブー視されていて、政治と文化の間には明らかに距離があるらしい。そんな話を聞いた後、なんとなくインターネットで日本の政治関連のニュースを見るようになり、秋に行われた総選挙の報道なども見ていて、音楽がない日本の選挙の光景にかなり驚いた。

 人の国の政治のことをどうのこうの言うつもりは毛頭ないし、その選挙がたまたまだったのかもしれないけれど、ビートルズにしろストーンズにしろ、その作品の中やコメントで政治や社会に物申してきた。スプリングスティーンやマドンナ、少し意味合いが違うが前回の大統領選のカニエ・ウェストにしてもはっきりと指示する候補者や支持政党を明らかにし、選挙戦に関わるアーティストも多い。さらにはKLFのように選挙のタイミングにあわせて自らのアナーキズムを鮮明に打ち出し、その姿勢自体を打ち出すアーティストだっている。

 ここ10年くらい世界中を回遊するポピュリズム的な群れがその意味合いを少しずつ変えて、文化トライブの主義主張がそれまでとは違った形で利用され始めている感も否めないが、選挙にはいつも音楽があるし、そこから共感が生まれ、大きな畝りとなっていく。選挙は自分が属するコミュニティの今後を大きく変える争いであると同時に違った意見を持つ人の意見に触れるための場でもある。そこには色々な声があるわけだし、そこには違ったジャンルの音楽が交差する、どことなくフェスのような雰囲気が漂う。

 特に第二次世界大戦以降、政治と文化が分離しがちだった日本だからこそ政治色がアニメやマンガというカルチャーが生まれ、そんな性質から世界中に浸透していったというような論文を読んだことがあるが、同じ文脈から生まれ同じように浸食を続けるヴォーカロイドという文化なら、日本の選挙にどんな音楽をつけていくのだろうか。

 

Published: almanacs Vol.02 (2022AW)
text:Aimee Marcos
translation & improvisation : Sugar Kane

 

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