Artist Talk - Teppei Kaneuji
物語が広がる世界を編集者感覚で作り上げるアーティストの金氏さんに伺った、漫画家と赤瀬川原平、コラージュと編集、アカデミックと創作、カルチャーとアート、ビートルズとボアダムス、等々。
佐藤 俊(loosejoints主宰/以下、「LJ」):もともと金氏さんの作品が好きで新作が出るたびに追いかけていたので、共通の知人から紹介してもらい、あれよあれよと22AWにご参加頂くことになり、まずは純粋に嬉しいです。ありがとうございます。
そう言えば、こうやってふたりで改まってお話しするのは初めてですよね。そもそも金氏さんがアーティストになろうと思ったきっかけを教えてもらってもよいでしょうか?
金氏徹平:(以下、「TK」):あまり明確にこれっていうのはないんですけど、子どもの頃からモノを作ることが好きだったんですよ。絵を描くことも好きで、小学校の頃は、漫画家になりたかったんです。
でもまったくストーリーが思いつかず、こりゃ無理だと思ってすぐに諦めた(笑)。絵にしても、好きだけどめちゃくちゃうまいというわけではなく、当時の浅はかな知識と経験で判断したんですけど。
そんなこんなで中学生になると、今度は映画監督になりたいなと思うようになっていった。映画も大好きで、ずっと色々なジャンルの作品を観ていたんですけど、自分なりに調べていくうちに、「どうやらいろんな人と一緒に仕事をしないと映画は作れない」ということに気づいて、それはちょっと自分にはできないなと思い諦めた。
これもまた誰に相談するでもなく、当時の自分が勝手に判断したんですけどね。
赤瀬川原平、コラージュ、雑誌
LJ:かなり切り替えが早くて、前向きですね(笑)。
TK:確かにそうですね。しかも、高校生になったら今度はミュージシャンになりたくなってた(笑)。ろくに楽器もできなかったんですけど、どうにもこうにも毎日練習するみたいなのができなくて、これまたすぐに諦めました。
自分はやっぱり「いきなり何かができる」みたいなのが合ってるなと思って。例えば、極論すると絵って別に線一本でも絵と言えば絵だし、造形にしても粘土の塊そのものでもモノとして存在するわけで、そういう感じに心地よさを感じていた時に赤瀬川原平さんの展覧会でものすごく感銘を受けて、これだったら自分にもできるんじゃないかと思ったんです。
実はものすごい技術なんだと、後から気づくんですけどね。
LJ:赤瀬川さんの作品は、確かな技術の上にある極みですよね…。
TK:そうそう、でも当時はそれに気づいてなくて、誰にでもできると思ってた(笑)。缶詰をひっくり返して作品にするとか、日常的に集めたモノを並べただけで作品になるとか、それこそトマソンみたいに視点を見せるだけとか、そういうのがしっくりきたんですよ。
いわゆる現代美術みたいなところだったら自分にも居場所があるんじゃないかと思って、なんとなく地元の京都にある美大の彫刻学科になんとなく進みました。
LJ:金氏さんのお話を伺っていると、手法は違えど何か物語というかひとつの世界を作り上げるようなことをずっと志向してきたんですね。
TK:そうですね、大学でしっかりとモノを作るということを考え始めてみて、自分には一から何かを組み立てていくことはできない、むしろ既にあるモノの並べるとか組み合わせる、視点を変えるみたいなことが自分のモノづくりの方向性なのかなということが明確になって、コラージュみたいな手法をすごく意識するようになり、作品と呼べるようなものがやっと作れるようになっていった。
LJ:コラージュって、編集にも通じる感覚ですよね。どことなく物語を感じる金氏さんの作品を拝見するたびに、並べ方とか視点の変え方とか、特に雑誌を編集しているような感じに似ているなと思っていました。
TK:なるほど、確かにそうですね。編集という手法にはすごく共感を覚えていたけど、実際に雑誌とか見ている時の方がそんな気がすることが多いかもしれないです。
でも大きく違うのは、完成させなくてもいいところかも。完成させなくても、パッケージされたものにならなくても、アート作品だったら成立するというか。そういう意味で、漫画も映画もどうしても始まりと終わりがあるし、編集者にしても最終的には本だったり何かにまとめなければならない。それすらしない状態は、やはりアートとしか呼びようがないのかもしれませんね。
LJ:それこそ作品のテーマは先に何かこれだと決めてから、それを構成するパーツを探すというような感じなのでしょうか?それともパーツからテーマが決まっていく感じですか?
TK:どちらもありますね。意味もなく日常的になんとなく面白いかなというモノを集めていることもあるし、自分の中で帰属だったりとかテーマだったりというようなものが見えてきて、それにあわせて意図的にモノの見方を変えてつなぎ合わせていくこともあります。
僕にとっては、やはり何かを見たり出会ったりすることが作品の制作の全てと言ってもいいかもしれないです。いちばん多いのは、車とか電車に乗っていて外の景色を観ている時に何かに見えたとか、きっかけになるのは何か見間違いみたいなことだったりすることが多い。一瞬パッと観えた光景がすごく美しくて、そこからインスピレーションを得るみたいな感じです。
テーマが最初か素材が最初か、いずれにせよいいイメージや素材が集まればもう作品ができたようなもので、あとの組み合わせの作業はそんなに、もうなるようになるみたいな。
大学、ロジック、プレゼンテーション
LJ:世間一般の編集者がどうかは定かではありませんが、そういう編集の感覚的な部分は、この『almanacs』を一緒に作っている仲間たちの感じにもかなり通じるところがあると思います。
ところで、金氏さんはしばらく前に地元の京都に戻って、大学でも教えながら創作を続けていますよね。やっぱり地元だし、京都をベースにしている方が落ち着く感じですか?
TK:いやー、そんなことはないですよ。実は京都、あまり好きじゃなくて(笑)。拠点がいくつもある方がいいなとも思っているんですけど。
LJ:大学とは別に、アトリエもあるんですか?
TK:以前はアトリエも借りてたんですけど、どうしても大学に行っている時と分離してしまうので、今はもう引き払って、作品もほとんど大学の研究室だったりで作っています。
LJ:研究室を持っているくらいだと、ガッつり教えてもいる感じですね。それだと、自分の創作との区切りみたいなものがなくなって大変じゃないですか?
TK:そういう風に感じていた時もあったんですけど、今はその差はあまりなくて、学校にも教えに行っているような感覚はあまりないんです。普通に話しに行っているような。
LJ:なんだか新鮮な環境ですね。学生と話すことで、ご自身の創作にも影響は出てきますよね。
TK:今の若者の間ではこんなことが問題になっているのかとか、よくも悪くも社会的なことに関心を持たざるを得なくなるし。
それに、自分も在籍していた彫刻科専攻を受け持っているんですけど、大学に戻る前はもうジャンルとかまったく気にせずに創作していて。教えるようになってからは彫刻の強みとか意味合いとか、そういうことも考えざるを得なくなったから、改めて自分の創作を見つめ直すきっかけにもなっていると思います。
わざわざ大学とかで接することがないと、自分や居心地のよい少数の周りの人たちとの枠の中から出ることもなくて、その年代との接点ってなかなかない。
LJ:僕も今なぜか京都藝大にも席を持たせて頂いていて、今一度自分のやっていることのロジックを整理できたりして面白いなと思うことがあります。同じように大学で教えるようになったアーティストだったり同業の諸先輩方をみていると、なんか一回アルバムを出した後、次のバージョンにいくような感覚の人が多いんですよね、ミュージシャンに例えると。
一度自分の活動を第三者的に見つめ直して、次のステージの創作や活動に専心して表現を広げていく人と、そのまま先生をメインにする人に分かれていきますよね。
TK:確かに。プレゼンしないといけないと言うか、若い子にもちゃんと自分の考えを伝えようとするとだいぶ整理して話さなければならないし、同時にアカデミックな意味での上の人たちも説得しなければならないところもある。
LJ:作家であるからこそ招聘されている面もあるから、ご自身が意識していないようなアーティスト的コンテキストについても考えなければならなくなったり。
TK:上も下もいるので、そうなんですよね。
ファンクラブ、フィギュア、ビートルズ
LJ:編集感覚のこととか、お互いに京都の大学で教えてたりとか、何気に共通点が多くて、なんだかお話ししていて勝手にとても楽しくなっています。
ところで、今回の<loosejoints>のコレクション用に、いくつかの作品をご提案頂いた中から、「teenage fanclub 」という作品を選ばせて頂いたんですけど、改めて作品について伺ってもよいですか?
TK:色々なモノを組み合わせて作品を作るということをやってきた中で、時代や状況によって安く手に入るモノって変わってくるんですよ。
この作品を作り始めた頃フィギュアが大量に出回るようになっていて、それこそものすごいクオリティの高いものがめちゃめちゃ安く売ってた。2000年くらいのことだったと思うんですけど、当時まんだらけで働いていた友だちが、ジャンク品みたいなのを大量に安価で譲ってくれて、なんか作品にできなかいなと思って作り始めたんです。
その中で髪の毛のパーツだけで組み合わせていった。しかもゲームとかアニメのキャラクターだと思うんですけど、見たこともないようなものもたくさんあって、そこにはもう訳がわからないくらいいろんな物語が存在していて、スケールもバラバラで出たら目にそれらが組み合わさった状態から新しい物語ができたら面白いなと思った。
彫刻的に考えても、髪の毛というパーツはとても重要で、西洋の彫刻でも仏像でも、概念的な部分ではもちろん、自然物と人工物をつなぐような文脈でも大切な意味合いを持っているんです。時には、アイデンティティから離れていく自分の身体の一部の象徴になったり。技術的も彫刻における髪の毛の表現は、最も難しいもののひとつなんですよ。
しかも、そもそも二次元なアニメやゲームのキャラクターを三次元のフィギュアにしたものが多いから、次元の行き来みたいなものまである。そういう複雑な状況を表現してみたかった部分もありますね。
あと、もう一つモチーフになったものがあって、90年代の終わりくらいから日本でも大きな野外フェスとかやるようになったじゃないですか。僕も学生時代によく行ってたんですけど、巨大なステージをいちばん後ろから見ていると、もう人の頭しか見えない。
ああいう状態って、ポップカルチャーとかユースカルチャーがうごめいている様子にも見えて、そういうモンスターみたいな状況を作品にできないかなとも思っていたので、それらの要素がうまく絡まり合いながら作品ができていった感じですね。
LJ:それを聞くと、タイトルまで完璧ですね。最初はなんで「teenage fanclub」なんだろうって思ったんですけど。
TK:「ファンクラブ」っていう響きがいいなと思ったんですよ。バンド名とか曲名とかフレーズからタイトルつけることが多くて、今でも結構やってます。
LJ:まったく同じことをやってますね、我々も。そもそも『almanacs』の各号のテーマ、全部ビートルズの曲名ですし。
TK:おおおー、奇遇ですね。最近『Get Back』を観て、ビートルズばかりめちゃくちゃ聴いてるんですよね(笑)。
LJ:出る出る詐欺みたいな状況が続いて、しかもまったく当初とは違う形になってましたけど、あれは凄かったですね。
TK:いやー、めちゃめちゃ面白かったですね。モノを作る人の視点で観ると、色々な要素が含まれていて。あと、一緒に観た2歳の娘がどっぷりビートルズにハマってた。ずっと口ずさんでるし、曲が流れると誰がボーカルか当てるんですよ。ジョンとかポールとか、ジョージとか。
カルチャー、次元、持ち物
LJ:ジョージまで(笑)!それはかなりの帝王学ですね。
ところで、作品やアーティストのことをより多くの人に深く知ってもらいたという想いと、作品を介して世代を超えた触れ合いが生まれて新しいカルチャーが生まれるような環境を作っていきたいという気持ちから、<loosejoints>はカルチャーメディアみたいな感覚でやっていて、これは雑誌を作っている時も同じなんですけど、今回の「teenage fanclub」みたいに立体の作品を平面に落とし込むときに、意味合いが変わってしまうんじゃないかとか、作品の価値を落としてしまうんじゃないかとか、いつもヒリヒリしているんです。
かなりデリケートな部分だと思うので、後学のため、その辺について金氏さんが一アーティストとしてどんな考えを持っているか伺ってもよいでしょうか?
TK:これは完全に人によると思うんですけど、僕の場合はそれが面白くて、どんどんやっていきたいですね。さっきの話にも繋がりますが、次元やメディアを行き来することって、特にそれがTシャツとか服とかというメディアになると、流通はもちろん、着ている人の身体性や生活とか、そういう色々な壁を跨いでいくことでオリジナルがどんどん変化していくところが面白いと思う。
だから最近、積極的に跨ぐようなことをしていて、それこそ<loosejoints>にも提供させてもらいましたけど、「teenage fanclub」はリコーさんと2.5次元のプリント作品としても展開しようとしていたり。
ここ数年、演劇とかパフォーマンスみたいなプロジェクトにも関わったりし始めたりとか、気がついたら人と一緒に仕事をするようになっていて。ずっと個人をベースに仕事をしてきて、やっと自分特有の技術というか持ち物ができたと思えるようになってきた。そんな実感が持てたから、生まれて初めて人と一緒にできなと思えたのかもしれないですね。
LJ:もはや映像とか舞台とか、世界の一部になり始めていますもんね。
TK:そうそう、だから自分は音楽は諦めたけど、好きなアーティストと対等に、一緒に仕事をすることはできるわけで。そのためには別の世界で何か自分なりのことが表現できたらいいんだみたいなことは、ずっと考えながらやってきたところはありますね。
LJ:それは本当にその通りだと思います。実際、僕が編集者になったのを同じような理由ですし。自分にはできないけど、企画をして人をつなげて、一緒に何かをすることはできる仕事だから、なんか居場所を見つけた!みたいなところが大きかったです。
それこそそもそも金氏さんをご紹介して頂いたのが、ずっと仲良くさせてもらっているボアダムズのマネージャーのジュンコさんで、金氏さんも(ヤマタカ)EYヨさんのファンだということでお会いすることができて、一緒にモノを作ることもできました。
TK:EYヨさん然り、未だにミュージシャンには憧れもめちゃめちゃありますけどね(笑)。
EYヨ、20年、ボックス
LJ:金氏さんって、もちろんアートの世界にいらっしゃるわけでけど、カルチャー文脈もひしひしと感じますよね。
TK:もう完全に対等というか、同じ大きさでありますね。たまに美術誌のインタビューとかで「いちばん影響を受けたアーティストはどなたですか?」とか聞かれるですけど、「ボアダムスのEYヨさんです」って言ってます(笑)。
LJ:音ももちろんですけど、EYヨちゃん絵も凄いですよね。(画家の)角田(純)さんや五木田(智央)くんもEYヨちゃんの描く線を見て「これどうやったら描けるの?」って言ってますもんね。
TK:本当に謎ですよね(笑)。
LJ:そういえば今年で作家活動を始めて20年ですよね。個展とか作品集とか出したりする感じですか?
TK:直近だと、4月に千葉の市原湖畔美術館というところで個展があるのと、同じタイミングで恵比寿にあるナディフでも個展が。ナディフの方では、これまでの出版物とかフライヤー、それから小さい作品だったりグッズみたいなものや、アトリエに転がってた作品の素材やCDとか、そんなモノを詰め込んだボックスセットを販売する予定です。
LJ:それ最高ですね。楽しみにしています。
Published: almanacs Vol.02 (2022AW)