Column - Art & Fashion

GIRLZ N DA HOOD
”着る”アート。

 

自分の目で見て体感し、好きなものを突き詰める性分だという〝おみゆ〟こと小谷実由さん。
〝ゆるゆるな関節〟こと〈loosejoints〉は、突き詰めるに値する存在でありますでしょうか?

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小谷実由
おたに・みゆ/ファッション誌やカルチャー誌、MVや広告などを中心に、
モデルとしてだけでなく執筆家としても活躍中。
さまざまな作家やクリエイターたちと共に立ち上げたプロジェクトでも話題に。
愛称は“おみゆ”、昭和と純喫茶をこよなく愛す。
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好きな洋服を選ぶみたいにアートを選べたらいいな。そんなことをずっと考えていた。そうしたら、現れたの目の前に。それが〈loosejoints〉だった。「loose」な「joints」ってどういう意味?ググってみたら「ゆるい関節」だって、なるほど。

なるほどというわけではないのだが、私は〈loosejoints〉の服が好きだ。ディレクターの佐藤 俊氏がいつもキラキラした目で「これやばくないですか」と嬉しそうに説明してくれる服たち。うん、全部やばい。毎回新しいものが世に放たれるたびに、「やられた」と思う。
そして私は、Tシャツが好きだ。何枚あっても買っている。Tシャツなら許される何か魔法のようなものもある。私も自分の想いをTシャツに乗せて世に送り出してみたことが、過去に何度かある。
「やられた」とどうして思うかというと、私がやっていたことなんかよりもっともっとウィットに富んでいて、イケてるからだ。遊びが上手な大人って、やっぱりかっこいいんだな。

私は大事なものが多い。好きなものと自分との思い出が増えていくほど、それが大事なものに進化することが多く、だからこそ好きなものを所有するのが怖くなる時もある。なぜなら、そういうものはすべていつでも手の届くところに出来れば置いておきたいから。目が届くだけでもいい。写真や絵などのアート作品に惚れ込み所有しようと思う時は、せめて家の中では目の届くところにあってほしい。
実際はそんな願望が全てまるっと収まる広大な家に住んでいるわけがないので、好きになったものを全て所有することは不可能だ。想いが深まらないうちに、一目惚れした作品たちの前から立ち去ったことが何度もある。アートを所有するって、物理的にも気持ち的にも私には難しい。そんな失恋のような悲しみを払拭してくれようとするのがあの服たちだった。Tシャツって想いを掬い上げる魔法もあるんだ。

敬愛する映画監督である矢崎仁司氏の言葉に、「映画は理解するものではなく、感じるものだと思っている」というものがある。この言葉は私の中で物事と正対する際の指針のひとつだ。

私は映画だけでなくアートにもそういう想いを作用させたいと思う。アートと聞くと、知識もない私が踏み入れていい世界なのか...と、少し身構えてしまうことが以前はあった。これは私の生真面目さ故の偏りまくっていた過去の考えだが、そのアーティストがどんな経歴で、どのようにしてその作品を生み出したのかを知らないで作品を観るなんて論外だと思っていた。
これらは確かに知っておくべき事柄だと思う。でも、知るのが先か見るのが先かはどちらでも良くない?と頭の中のネジがある日外れた。なぜか私は順序を決めつけ、とんだ遠回りをしそうになっていた。大事なのは作品と自分が初めて出会った時、自分の頭に流れ出してくる何かなのに。
ということで、「作品の形状はどのようなものだっていいんだ」と気付いた今思うことは、〈loosejoints〉は“着る”アートなんだということ。気後れして踏み入れられないまま外からチラチラ覗く世界より、これやばいなと直感で手に取って着ることができて、いい気分で心がゆるくなって新しいことを知る世界の方が幸せに決まっている。
「アートを着る」ということで、アートと関わる喜びを気軽に教えてくれるなんて。

〈loosejoints〉のTシャツには、そんな魔法がある。

 

Published: GUGGENHEIM Vol.03 (2021AW)

 

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