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弁護士に聞く、著作権Q&A


ものづくりをしている人でも、知っているようで実はよくわかっていない「著作権」の世界。クリエイティブの強力な味方・石井宏之弁護士に、めくるめく世界を案内してもらいました。

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石井宏之(石井|高畑法律事務所)
1978年生まれ。J.M.WESTONとBAD BRAINSを愛する弁護士/音楽愛好家。ポップ・カルチャー全般、エンタテインメントやクリエイティブ分野の法務に興味があります。
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1 そもそも、著作権ってなんなの?

例えばここに、最近亡くなったリッキー・パウエルの『Public Access』という写真集があります。当然ですがこれは自分の所有物なので、友だちに貸したり、プレゼントしたり自由にできますし、飽きたら売っぱらってしまうこともできます。ただ、この写真集のベストショットであるラッパーのRakimの写真を勝手にTシャツにして売ったりすることはできません。写真集の中身である情報(=写真)自体を利用しようとしているからです。所有権(=物としての写真集を、占有、使用、処分をコントロールする権利)は、写真集にのみ及ぶものであり、情報としての写真には及ばないのです。この情報の利用に及ぶ権利が著作権であり、クリエイターであるリッキー・パウエルに帰属していると思われます。この意味で著作権は、権利者が情報としての作品の複製、翻案、その他の利用をコントロールする権利と言うことができます。具体的には、権利者は作品を勝手に使われてしまった場合に損害賠償請求をしたり、勝手に使っている人に対し強制的に利用を止めさせたりすることが可能です。


2 どうしたら、著作権をとることができるのかな?

特別な手続きは、必要ありません。著作権法では、「著作者は作品の創作と同時に著作権を取得する」と考えられているので、権利取得のために出願・登録等の何らかの手続きを取る必要はありません(無方式主義、著作権法17条2項)つまり、クリエイターがロゴをデザインしたり、写真を撮ったりしてただ作品を創出すれば、その瞬間から世界中で保護されるようになっています。
一方、著作権法と異なり商標法では、権利取得ために登録主義を採用しており、特許庁への出願・登録を必要とする点には注意が必要です。


3 じゃあ、著作権と商標権の違いについて教えてください

著作権(=©︎)と商標権(=®︎)は、双方とも知的財産権のカテゴリーに属する権利であり、さきほどの写真集の例からも分かると思いますが、「物理的な物ではなく情報そのものに関連する権利」です。
そもそも著作権法は、究極的には「文化の発展に寄与」することを目的とする法律であり(著作権法1条)、商標法は「産業の発展に寄与」及び「需要者の利益を保護」を目的とする法律です(商標法1条)。つまり、著作権法は「文化」を発展させるため、商標法は「産業」つまりビジネスを促進させるためのものと言えます。そのため、著作権法が保護する対象は、著作物、すなわち小説、映画、音楽、絵画、写真など「具体的な作品」です。他方、商標法は、商標、すなわち「自己の商品・サービスと他者の商品・サービスとを区別するためのマーク、ブランド」を保護します。
このように著作権と商標権は別々の法律で保護されるに独立した権利ですので、登録商標(例えば<SUPREME>の有名なボックスロゴを想像してください)が、クリエイターの作品としても商品・サービスのマーク、ブランドとしても保護されることになります。ただ、著作権者と商標権者が同一の主体であるとは限りません。著作権は作品の創作と同時にクリエイター(<SUPREME>のファウンダーであるジェームス・ジェピアの友人らしい)に帰属しますが、商標権は出願者(株式会社Supreme)に帰属することになるからです。


4 著作権って、クリエイティビティを妨害してない?

もちろんそういったケースも沢山あります。直ぐに思いつくのは1980年代後半に登場したDe La SoulやA Tribe Called Questに代表される第三者の音源のサンプリングをたっぷりと使うことでクリエイティブな作品を出していたアーティストたちのことですかね。結局、1990年代になってからサンプリングした側の敗訴が続いたことで、サンプリングという制作手法自体が徐々に輝きを失っていったような印象があります。De La Soulに関して言うと、<TOMMYBOY>時代の初期作品は、現時点でいずれもまだデジタル配信されていません。レーベル自体との関係だけでなく、権利処理の問題が解決できていないのだと思われます。
最近だと(と言っても3年ほど前ですが)、ロビン・シックとファレルがマービン・ゲイの遺族に著作権侵害で訴えられて敗訴したため、約500万ドルを支払うことになりました。本件は、マービン・ゲイの曲である「Gotta Give It Up」をサンプリングしたわけではなく、彼らの曲である「Blurred Lines」のスタイルやフィーリングが同曲に似ているという理由で、著作権侵害を認定されてしまいました。コード進行も全然違いますし、実際、超有名音楽プロデューサーのリック・ルービン御大もお怒りの様子でしたね。
現在では無許可での大胆なサンプリングを避けることにコンセンサスがあると思いますが、音楽の著作権が発生する範囲が広がり過ぎたり不明確であることは、自由な創作活動を阻害する一因になっていると言えそうです。
一方、著作権とクリエイティビティの問題については、The KLFなんかは著作権に捉われない姿勢を前面に出すことで、現代アートとして完成したという感じもします。彼らの最初のアルバムである『1987』は、ABBAの曲をはじめとして無許可でサンプリングしまくっていたので、著作権管理団体からアルバムの回収や原盤の引き渡しを要求され、その後、権利処理をしていない部分を削除した全然音が入っていないアルバム『1978(TheJAM45Edits)』をリリースした話はあまりにも有名です。かっこいいですね。まさにパンク以降のアーティスト。正式名称も「KOPYRIGHT LIBERATION FRONT」ですし(確か…)。なお、彼らは1992年にすべての作品を廃盤にして引退していましたが、2021年の元日、29年ぶりに突如復活しています。


5 最近よくDJのライブ配信を聴くのですが、あれって合法なの?

この質問は非常によくされます。これも著作権とクリエイティビティの相克の一場面ですね。ただ、以下のように現時点では全て適法に権利処理をしてDJのライブ配信を行うことは、非常に難しいと考えています。
当然ですがDJのライブ配信を行う場合は第三者が権利を有するレコードやデータ等の音源自体を使用することが前提となるため、メロディ、ハーモニー、リズムなどに発生するとされる著作権以外にもレコードやデータに固定された音源に関する権利である原盤権(正式名称は「レコード製作者の権利」)に関しても、権利処理が必要となります。
日本では著作権の処理はJASRAC等の著作権管理団体に著作権使用料を支払うことで対応可能です(ただ、著作権管理団体に管理を委託していないいわゆる非管理楽曲に関しては別途個別に権利処理をすることが必要です。レコードのみでリリースされているようなクラブミュージックではこちらが大半だと思われます)。  
しかし、原盤権はJASRAC等の管理団体が存在しないことから、それぞれの音源に関して、原盤権者から直接利用許諾を受ける必要があります。ただ、(特にアンダーグウンドな作品の場合)そもそも原盤権者か誰かわからないケースも多いと思いますし、仮に本気で権利処理した場合は途方もない手間(とお金!)が掛かってしまうことになるので、あまり現実的ではありません。「文化」を発展させるために存在する著作権によってDJカルチャーの盛り上がりが阻害されている状況を変える必要があります。例えばアメリカの「SoundExchange」のような原盤権から著作権までを権利処理することができる団体を作ったり、非管理楽曲の使用がある程度の対価を支払うことにより自由にできるような仕組みを作っていくことが必要だと考えられます(これは色んな人が言ってることですが…)。


 

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