Fashion Photography as a Cultural Platform

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Column - Fashion

Fashion Photography as a Cultural Platform
プラットフォーム化するファッションフォト

 

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大城 壮平
おおしろ・そうへい/1988年、沖縄県宮古島生まれ。 早稲田大学商学部中退。『Them magazine』(Righters)のエディターを経て独立。ファッション/カルチャー誌『VOSTOK』やカルチャーメディア〈POST-FAKE〉などを手がけている。今年4月に『VOSTOK』Vol.005を発刊予定。
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 「大城くん、ファッションフォトはもう90年代ですべてやりつくされてるよ」。
一昨年亡くなったヘアメイクアーティスト、加茂克也さんが撮影中に放ったこの一言が、今でも耳に残っている。加茂さんいわく、ファッションフォトの表現はすでにありとあらゆるアプローチがなされ、これから何かを表現しようとしとも、それは過去の焼き直しに過ぎないというようなことだった。

 その時は、確かにそうかもしれないと思った。ファッション誌にお金や権力、そして何より影響力があった時代、モデル選びにライティング、シチェーション、スタイリング、ヘアメイクからレイアウトまで、先人たちは意欲的にあらゆる表現を試みてきた。加茂さんの言うように、ファッションフォトでまったく新しい表現を模索するのは難しいかもしれない。でも、それはあくまで「表現」での話。今、ファッションフォトは「表現」ではなく、一種の「カルチュラルプラットフォーム」として機能しているのではないかと思う。


 そもそも写真の歴史は、絵画の代わりとなるドキュメンタリーツールとして始まった。それが絵画と同じようにアート手法の一翼となり、さらにその時々のカルチャーが形作られていく上で欠かすことのできないファッションという一つのファクターとの親和性の高さから、写真イメージを主とするファッション雑誌という専門メディアが生まれた。19世紀後半に創刊された『Harper’s BAZAR』や『VOGUE』を皮切りに、『THE FACE』に『i-D』、『purple』、『self service』など、21世紀の初めまでの間にそれこそ星の数ほどの雑誌が誕生し、それぞれが競い合い、ファッションフォトという表現は確立し、ありとあらゆるイメージを打ち出すことになっていく。


 そんな流れと環境の中で、ファッションフォトは常にファッション雑誌と共にあり、それこそ加茂さん世代のクリエイティブたちは毎日のように様々な実験を重ねていったからこそ、冒頭の言葉につながった。しかしながら現在、SNSやウェブの興隆により、ファッション誌は死に体となってしまった。Instagramやtwitterにあげられたイメージたちがきっかけとなり、そこにコミュニティが生まれ、カルチャーが形成されていく。2020年代おいてはもはや、ファッションフォトは、雑誌という媒体が作り出すものではなく、それ自体が媒体となり、新たなカルチャーを紡ぐプラットフォームへと自己変革を続けている。


 そんな気配をひしひしと感じていた2019年、あろうことか僕は『VOSTOK』というファッション・カルチャー誌を立ち上げてしまったわけだが、ファッションフォト自体がプラットフォーム化するこの時代だからこそ、ファッションをフィールドにする雑誌という媒体にいったい何ができるのだろうか。残念ながらここではスペースが足りなくなってしまったので、次号の『VOSTOK』(4月発売)で写真家ホンマタカシさん、アートライターの村上由鶴さんと更に深く話し合ってみようと思う。


 

Published: almanacs Vol.02 (2022AW)
text:Sohei Oshiro(VOSTOK)

 

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