At the Lakeside

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Column - Culture

At the Lakeside
湖畔にて。

 

ある種の男たちが集まる時、彼らは常に最小公倍数を基調にすえて
互いの関係を固めていくように見える。
逆に女たちが集う時、彼女たちは最大公約数を規範にして
関係性の安定化をはかる傾向があるように思う。
男の人間関係は核を中心に、女の人間関係は枠をルールに形成される。
もちろん、今はジェンダーレスな時代ではあるが、少なくともこれまでは
こうしてボーイフッドとガールフッドのカルチャーは生まれてきた。

ボーイフッドのムーブメントにおける最小公倍数とは何か、それは甘い「蜜」だ。
他のものが目に入らないほど夢中になり、蜜の本質を求めて中毒症状にかかり、
自らの中に吸収しながら、蜜を再生産していく。
やがてその蜜の魅力は外部に広がり、瞬く間に世の中を席巻する。
それは音楽だったり文学だったり映画だったり写真だったり、
さまざまな形態に変化して社会に影響を与えていく。
世界は甘い蜜の香りに包まれる。

そうやって彼らは生きてきた。そして彼らはだいぶ大人になった。
大人になった彼らのために、loosejointsという小さな湖が生まれた。
外の世界とうまく折り合える者も、あまりうまく折り合えない者も、
この湖のほとりに集まると、日常の喧騒から離れて、
しばし皆で無邪気に語り合う。
その湖のまわりでは異文化の光合成が行われ、やがて新しい「蜜」が生まれる。



 「グランド・ロイヤル」を覚えてるだろうか。90年代、オルタナティブな音楽の大きな潮流とともに、ビースティ・ボーイズが立ち上げたインディ・レーベルだ。それはヒップホップのみならず、パンクからジャズ、ファンク、レゲエなど音楽の枠を超えて縦横無尽に自由な表現をするプラットフォームだった。彼らは音楽から派生してさまざまなジャンルにも活動の場を広めていった。雑誌を創刊し、ファッションブランドを立ち上げ、イベントやショーまで開催した。チャリティのフェスやフリーダムコンサートなど、リベラルな思想のもと、さまざまなアーティストたちが集まった。
「グランド・ロイヤル・マガジン」は彼らの活動を集約したような雑誌だった。創刊号の黄色い衣装のブルース・リーはじめ、独特のビジュアルと企画にファンは熱狂した。毎号変わる表紙のロゴなどモンドなグラフィックで、単なるファッション誌でもカルチャー誌でもなく、音楽のジャンルを超えたレーベルと同様、自由気ままに自己表現する場としてユースカルチャーをゴキゲンに牽引した。
ビースティ・ボーイズのマイクDは「XLARGE」の創業メンバーでもあった。キム・ゴードン、クロエ・セヴィニー、ソフィア・コッポラ…XLARGEとX-girlのファッションアイコンたちは、同時にカルチャーのアイコンでもあり、まさに一斉を風靡した。
「グランド・ロイヤル・マガジン」には必ずXLARGEの広告が入っていた。それは初期XLARGEを支えてくれたビースティへの熱いリスペクトであり、大成功したXLARGEからのピースなサポートは「グランド・ロイヤル」との素敵な関係だったと思う。

かつて雑誌はいろんな文化のハブのような存在だった。雑多に融合したコンテンツが互いに刺激を与え合っていた。雑誌が絶滅危惧種となった今、「グランド・ロイヤル・マガジン」のようなプラットフォームをどこに求めればいいのだろう。アダム・シルバーマンとイライ・ボーナスのようにXLARGEから派生する様々な現象をサポートしてくれるような粋なパトロンも今はいない。


loosejointsは単なるブランドでもレーベルでもなく、今、現代の小さなハブになろうとしている。
大きなメディアが次々と爆死した後の殺伐とした瓦礫の中で、小さな湖としてみずからを自覚している。
おしゃべりと笑いとビールとスイング。そして「蜜」にあふれた新旧の作品たち。
やがて湖の周辺に樹々が育ち、鳥や動物がやってくるような深い森ができる日まで。


Text:Toshiko Nakashima

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